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東京高等裁判所 平成11年(行ケ)20号 判決 1999年6月03日

神奈川県川崎市幸区堀川町580番地

原告

触媒化成工業株式会社

代表者代表取締役

内海治

大阪市中央区平野町2丁目1番2号

原告

日本臓器製薬株式会社

代表者代表取締役

小西甚右衛門

両名訴訟代理人弁理士

萼経夫

館石光雄

村越祐輔

アメリカ合衆国01752 マサチューセッツ州

マルボロ ロック ドライブ 33番地

被告

セプレイカー インク

代表者

ダグラス イー リーディッヒ

訴訟代理人弁理士

廣江武典

"

主文

原告らの請求を棄却する。

訴訟費用は原告らの負担とする。

事実

第1  当事者の求めた裁判

1  原告ら

特許庁が平成8年審判第21852号事件について平成10年12月11日にした審決を取り消す。

訴訟費用は被告の負担とする。

2  被告

主文と同旨

第2  請求の原因

1  特許庁における手続の経緯

原告触媒化成工業株式会社(以下「原告触媒化成」という。)は、商品区分(平成3年政令第299号による改正前の商標法施行令の区分による。以下同じ。)第1類の「化学品(他の類に属するものを除く)抗菌剤、その他の薬剤、医療補助品」を指定商品とする別紙審決書の理由の別紙の構成よりなる商標登録第2515776号商標(平成2年10月16日に登録出願、平成5年3月31日に設定登録、以下「本件商標」という。)の商標権者である。被告は、原告触媒化成を被請求人として、平成8年12月25日に本件商標の指定商品中「単一異性体又は活性代謝生成物製剤及びその類似商品」についての商標登録の取消の審判を請求し、同請求は平成8年審判21852号事件として審理されていたところ、原告日本臓器製薬株式会社(以下「原告日本臓器製薬」という。)は、同事件の被請求人側に参加を申請し、平成10年3月10日に参加の許可の決定を受けた。特許庁は、同事件について平成10年12月11日に「登録第2515776号商標の指定商品中「単一異性体又は活性代謝生成物製剤及びその類似商品」についてはその登録は、取り消す。」との審決をし、その謄本を平成10年12月24日に原告らに送達した。

2  審決の理由

別紙審決書の理由の写のとおりである。

3  審決の取消事由

審決の理由1ないし4は認める。同5のうち、6頁下から3行目から7頁14行目までは認め、その余は争う。

審決は、審判請求によって本件商標の登録の取消しを求められている商品の範囲を誤認し、無機抗菌剤アイス(以下「本件商品」という。)が単一異性体及び活性代謝生成物製剤の類似商品であることを看過し、原告日本臓器製薬に不使用の正当事由があること及びその使用商標が本件商標と社会通念上同一であることを看過したものであって、違法であるから、取り消されるべきである。

(1)  取消事由1(審判請求によって本件商標の登録の取消を求められている商品の範囲の誤認)

被告の審判の請求の趣旨は、主文と同じく、本件商標について、「単一異性体又は活性代謝生成物製剤及びその類似商品」についての登録を取り消すというものであった。

上記請求の趣旨における「単一異性体」は、本来一般的な化合物をその立体構造から特定する用語であるから、その用途は何ら特定されていない「化学品」に属するものである。そうすると、審判の請求の趣旨は、「単一異性体(化学品に該当)及びその類似商品・活性代謝生成物製剤(薬剤に該当)及びその類似商品」についての登録を取り消すということになる。

ところで、原告触媒化成が使用している「無機抗菌剤」が、仮に審決の認定のとおり「化学品」に属するとしても、請求の趣旨の商品の範囲が「化学品」を包含しているとすれば、本件審判請求は成り立たないことになる。

しかるに、審決は、本件審判請求を認めたものであるから、誤りである。

(2)  取消事由2(本件商品が単一異性体及び活性代謝生成物製剤の類似商品であることの看過)

イ 「単一異性体及び活性代謝生成物製剤」は、いかなる作用・用途を有する薬剤であるかは特定されておらず、逆にいえば、いかなる作用・用途を有する薬剤であっても該当しうることになる。そうすると、「単一異性体及び活性代謝生成物製剤及びその類似商品」は、通常「薬剤」と呼ばれる商品のすべてを包含しているものと解さざるを得ない。

ロ 薬剤に属する殺菌剤には、水道殺菌、衣料殺菌、器具殺菌等公衆衛生を目的として用いられる殺菌剤も含まれるのであって、薬剤は、必ずしも食物に添加したり、動植物に直接適用するものだけを包含しているものではない。本件商品は、銀を抗菌活性成分とする抗菌剤であり、細菌の代表とされる大腸菌等を死滅させ、その増殖を阻止する効果及び目的を有するものであって、菌の増殖を抑え死滅させるという用途を目的として購入されるものである。その意味において、本件商品は、水道殺菌、医療殺菌、器具殺菌等に用いられる殺菌剤と同様、薬剤に属するのであって、化学品(無機工業薬品)にのみ属するとすることは妥当ではない。

本件商品は、一つの商品であるけれども、化学品としての抗菌剤であると同時に薬剤としての抗菌剤でもあるのである。

ハ 最近、商標登録される指定商品の表示に「抗菌剤(工業用のものを除く)、その他の薬剤」とする例を多数見受ける。本件商標の指定商品表示は、「抗菌剤、その他の薬剤」であって、工業用の抗菌剤と工業用でない抗菌剤の双方を含むものである。そうであるとすれば、工業用の抗菌剤と工業用でない抗菌剤は、同じ「抗菌剤」から枝分かれした商品であり、原材料及び製造業者を共通にする類似商品である。

したがって、仮に本件商品が工業用の抗菌剤(無機工業薬品として化学品に属する商品)であるとしても、「単一異性体又は活性代謝生成物製剤」の類似商品には、工業用でない抗菌剤(薬剤に属する商品)と工業用の抗菌剤(化学品に属する商品)の双方が含まれ、後者を使用していることは、「単一異性体又は活性代謝生成物製剤の類似商品」を使用していることになるから、本件審判請求は成り立たないとされるべきであった。

(3)  取消事由3(原告日本臓器製薬に不使用の正当事由があること及びその使用商標が本件商標と社会通念上同一であることの看過)

イ 「アイストローチ O」及び「アイストローチ L」のトローチ剤(以下「本トローチ剤」という。)は、半球状の製剤をPTP包装したものを2つ、更にアルミ包装して外箱に詰めた状態の商品として一般市場で販売されるものであるが、その成分が非常に水分を吸収しやすいという性質がある。アルミ包装開封後のトローチ剤については、品質の安定性について、法令による規制はないけれども、水分の影響を受けやすい薬剤については、その品質保持を継続することが医薬品業界における課題の一つである。そして、本トローチ剤の製造承認の取得後、アルミ包装開封後のPTP包装の状態での製剤の白濁が認められ、その変化が、たとえ人体に悪影響を及ぼさないとしても、需要者が安心して用いることができないと考えられた。そこで、平成9年7月から平成10年8月にわたっての研究・検討の結果、PTPトレイ等の改良等により、本トローチ剤の商品化が可能となったのである。

このように、本トローチ剤の上市遅延の最大の理由は、本トローチ剤の包装について、開封後の一定期間の品質保持のための技術的解決とその効果を確認する試験に時間を費やしたことであった。

原告日本臓器製薬は、本件商標の使用について、医薬品製造の承認を取得し、本件商標について商品「呼吸器官用薬剤及び消化器官用薬剤」の専用使用権を取得して真摯な準備段階にあったから、不使用について正当な理由がある。

ロ 原告日本臓器製薬の使用する「アイストローチ O」の商標は、その「トローチ」は、薬を砂糖に混ぜて円形に固めた口腔咽喉剤の一般名称である「トローチ剤」を意味しており、「O」は記号・符号として普通に用いられるものであって、いずれも識別性を有しないため、「アイス」の文字部分が自他商品の識別標識としての機能を有する主要部を形成するものである。また、上記「アイス」の文字は、本件商標と社会通念上同一の称呼及び観念を有する。

したがって、上記「アイストローチ O」の商標は、本件商標と社会通念上同一である。

第3  請求の原因に対する認否及び被告の主張

1  請求の原因1、2は認める。同3は争う。

2  被告の主張

(1)  取消事由1について

被告の審判請求書には、「「単一異性体又は活性代謝生成物製剤」とは、添付の甲第3号証に示すような商品であって、単一の異性体からなる薬剤若しくは、活性代謝生成物からなる薬剤であります。」等の記載があり、被告が商標登録の取消を求めた範囲が「薬剤」の範疇に属する商品であることは明白であり、特許庁及び原告らも、同様の事実認識の上で審判手続を遂行したものである。

(2)  取消事由2について

イ 本件商品は、例えば、植物・土壌用の抗菌・殺菌・防かび、動物の飼料に添加する等に用いられる農業用又は公衆衛生用薬剤等「薬剤」に属するものとは異なるものであって、工業用の抗菌目的に用いる無機工業薬品である。

ロ 薬剤の範疇に属する商品と化学品の範疇に属する商品とは互いに類似せず、両者は本質的に峻別されるべき商品概念である。

ハ 薬剤の範疇に属するためには、薬事法12条の製造業の許可及び14条の医薬品等の製造の承認に関連する商品である必要があるところ、この点に関する証拠は提出されていない。

(3)  取消事由3について

イ 商標権者等による本件商標についての不使用の期間は、3年以上の長期にわたるものであり、真摯な使用の意思によってやむを得ないと認められるものではない。たとえ専用使用権者による不使用の理由はある程度考慮に値するものであったとしても、それによって過去のすべての瑕疵が治癒するという性格のものではない。

ロ 原告日本臓器製薬の使用の準備に係る商標は、本件商標の構成態様とは社会通念上同一の商標であるとは認められない。

第4  証拠

証拠関係は、本件記録中の書証目録のとおりであるから、これを引用する。

理由

第1  請求の原因1、2の事実は当事者間に争いがない。

第2  審決の取消事由について判断する。

1  取消事由1について

(1)  弁論の全趣旨によれば、本件の審判における被告の審判の請求の趣旨は、審決の主文と同旨であり、その審判請求書の請求の理由には、「「単一異性体又は活性代謝生成物製剤」とは、添付の甲第3号証に示すような商品であって、単一の異性体からなる薬剤若しくは、活性代謝生成物からなる薬剤であります。単一異性体・・・からなる薬剤とは、分子構造が対掌性であり自身の鏡像体と重ね合わせることができない構造を有する分子・・・カイラル)の何れか一方の分子からなる薬剤のことです。カイラルが異なると、薬品としての作用・効果が異なるため、単一の異性体を使用するものです。活性代謝生成物製剤とは、特に生体内での代謝・・・を利用して製造される薬剤であります。」との記載があったことが認められる。

また、甲第1号証及び弁論の全趣旨によれば、審判手続においては、原告らも被告も、「単一異性体又は活性代謝生成物製剤」とは薬剤であるとの認識を持っており、審決も、同様の立場に基づいて、本件商品が薬剤であるか否かを認定判断して、その主文を導いていることが認められる。

(2)  以上の事実によれば、審決の主文及び被告の審判の請求の趣旨における「単一異性体」及び「活性生成物」の語は、いずれも「製剤」の語にかかるものであって、「単一異性体又は活性代謝生成物製剤」とは、「単一異性体又は活性代謝生成物のいずれかの製剤」の趣旨、すなわち、単一の異性体からなる薬剤又は活性代謝生成物からなる薬剤を意味するものと解すべきである。

(3)  したがって、これとは異なる前提に立つ原告らの主張は、採用することができない。

2  取消事由2について

(1)  商品区分第1類には、大概念として化学品(他の類に属するものを除く)、薬剤、医療補助品があるところ、化学品(他の類に属するものを除く)の中には、無機、有機工業薬品のほかにも、化学剤等が含まれており、上記化学剤は、漂白剤、防かび剤等化学的製品を用途又は効能の面に着目してとらえたものと解される。一方、薬剤も、また、中枢神経系用薬剤、末しょう神経系用薬剤等化学的製品を用途又は効能の面に着目してとらえたものでありながち、化学剤とは別の商品とされているところ、甲第7号証(特許庁商標課編「商品区分解説」社団法人発明協会昭和55年4月7日発行)によれば、商品区分第1類の「薬剤」に含まれるものは、薬事法2条1項、2項の医薬品ないし医薬部外品に該当する薬品又は農薬であることが認められる。以上の事実によれば、商品区分第1類の薬剤とは、取引者、需要者の間で医薬品、医薬部外品ないし農薬として取り扱われて取引の対象となっている薬品を指すものと解すべきである。

(2)  ところが、本件商品が医薬品、医薬部外品ないし農薬として取り扱われて取引の対象となっていると認めるに足りる証拠はなく、かえって、甲第4号証によれば、本件商品は、樹脂、繊維、紙、各種粉体、塗料、インク、接着剤、コーキング剤などへ少量添加するための商品として取引の対象となっており、その取引者、需要者は医薬品、医薬部外品ないし農薬のそれとは異なるものと認められる。したがって、本件商品が無機工業薬品に属するか化学剤に属するかは問題ではあるけれども、いずれにせよ、審決の主文における「単一異性体又は活性代謝生成物製剤及びその類似商品」、すなわち、単一の異性体からなる薬剤又は活性代謝生成物からなる薬剤ないしそれらの類似商品ということはできない。

(3)  原告らは、本件商品は、細菌の代表とされる大腸菌等を死滅させ、その増殖を阻止する効果及び目的を有するものであって、菌の増殖を抑え死滅させるという用途を目的として購入されるものであるという意味において、水道殺菌、医療殺菌、器具殺菌等に用いられる殺菌剤と同様、薬剤に属する旨主張する。しかし、本件商品は、細菌の代表とされる大腸菌等を死滅させ、その増殖を阻止する効果及び目的を有するものであるとしても、取引者、需要者の間で医薬品、医薬部外品ないし農薬として取り扱われて取引の対象となっているものと認めるに足りる証拠がない以上、単一の異性体からなる薬剤又は活性代謝生成物からなる薬剤ないしその類似商品ということはできない。

また、原告は、工業用の抗菌剤と工業用でない抗菌剤は類似商品であることから、本件商品が工業用の抗菌剤(無機工業薬品として化学品に属する商品)であるとしても、「単一異性体又は活性代謝生成物製剤」の類似商品には、工業用でない抗菌剤(薬剤に属する商品)と工業用の抗菌剤(化学品に属する商品)の双方が含まれ、後者を使用していることは、「単一異性体又は活性代謝生成物製剤の類似商品」を使用していることになる旨主張する。しかし、薬剤に属する商品である工業用でない抗菌剤が、抗菌剤であるために化学品である工業用の抗菌剤に類似し、また、薬剤であるために「単一異性体又は活性代謝生成物製剤」にも類似するとしても、そのことから直ちに化学品に属する商品である工業用の抗菌剤が、薬剤に属する商品である「単一異性体又は活性代謝生成物製剤」に類似するということはできない。そして、本件商品が単一の異性体からなる薬剤又は活性代謝生成物からなる薬剤ないしその類似商品ではないことは前記(2)の認定のとおりである。

したがって、原告らの主張は、採用することができない。

3  取消事由3について

甲第3、第9、第10号証によれば、本トローチ剤の共同開発者である高市製薬株式会社は、平成8年9月26日に本件トローチ剤の製造承認を得、同年11月24日に当該品目の製造許可を受けたこと、本件審判の予告登録がされたのは平成9年2月4日であることが認められる。一方、原告らの主張する原告日本臓器製薬の本件商標の使用遅延の理由は、結局のところ本トローチ剤の商品開発の遅れというべきものであって、上記高市製薬株式会社が上記製造許可を受けた後、本件審判の予告登録までの期間の不使用についての正当な理由という類とはできない。

4  以上のとおりであるから、商標法50条1項の規定により本件商標の「単一異性体又は活性代謝生成物製剤及びその類似商品」についての登録は取り消すべきであるとした審決の結論に誤りはなく、審決には原告ら主張の違法はない。

第3  結論

よって、原告らの本訴請求は、理由がないから、これを棄却することとし、訴訟費用の負担について行政事件訴訟法7条、民事訴訟法61条、65条を適用して、主文のとおり判決する。

(口頭弁論終結日・平成11年4月27日)

(裁判長裁判官 清永利亮 裁判官 山田知司 裁判官 宍戸充)

理由

1 本件商標

本件登録第2515776号商標(以下「本件商標」という。)は、別紙に表示したとおりの構成よりなり、第1類「化学品(他の類に属するものを除く)抗菌剤、その他の薬剤、医療補助品」を指定商品として、平成2年10月16日登録出願、同5年3月31日に設定登録されたものである。

2 請求人の主張

結論同旨の審決を求め、その理由を概略次のように述べ、証拠方法として甲第1号証乃至甲第5号証を提出している。

本件商標は、その指定商品中「単一異性体又は活性代謝生成物製剤及びその類似商品」について、継続して3年以上日本国内において、商標権者、専用使用権者、通常使用権者のいずれによっても使用されていないため、商標法第50条第1項の規定により、その指定商品中、上記商品についての登録は取り消されるべきである。

そして、請求人は、「ICE」の欧文字よりなる商標を登録出願(商願平6-97641号)しているが、該出願に対し、本件商標を引用とする拒絶理由通知書を受けている(甲第4号証)ものであるから、請求人は本件審判請求につき利害関係を有するものである。

3 被請求人の答弁

本件審判請求は成り立たない、審判費用は請求人の負担とするとの審決を求めると答弁し、その理由を概略次のように述べ、証拠方法として乙第1号証乃至乙第9号証(枝番を含む。)を提出している。

被請求人は、平成2年頃より商品「無機抗菌剤」の製造を開始し、その商品の包装容器及び製品カタログ・チラシ等に本件商標を使用しており、現在も引き続き使用している。

すなわち、乙第2号証及び乙第3号証は、商品「無機抗菌剤」に本件商標が使用されている事実を示すカタログであり、これには、本件商標と社会通念上同一の商標が明瞭に表示されているので、商品「無機抗菌剤」に本件商標を使用していることが明らかである。

また、商品「無機抗菌剤」は、「銀」を抗菌活性成分とする同「抗菌剤」で、代表的細菌である大腸菌を死滅させ増殖を阻止する等の効果を有するため、「薬剤」の範疇に入るべきものであり、被請求人の製品として「微粉末品」、「水系コロイド」及び「マスターバッチ」の3種類がある。

本件商標は、このうちの「微粉末品」が各種樹脂系材料に対する広範囲な細菌・カビ類に抗菌効果を付与する「無機抗菌剤」に使用している。

さらに、乙第4号証は、被請求人の発行する技術情報誌(Vol.9-No.2)の第28頁中段に「無機抗菌剤AISを上市して約2年が経過したが」とあり、この発行が平成4年12月となっていることから、「無機抗菌剤」の発売は平成2年頃であることが知れる。

乙第5号証及び乙第6号証は、本件商標を使用した商品「無機抗菌剤」の売上伝票の写しであり、乙第9号証の証明書共に本件審判請求の登録前3年以内に、本件商標は事実上使用されていることが明らかである。

しかも、乙第7号証及び乙8号証は、乙第3号証が本件審判請求の登録前の平成8年9月に印刷され、同年10月頃に配付されたことが明らかであるので、これによっても本件商標がその指定商品中の「無機抗菌剤」に使用されていることが立証できるのである。

以上のように、本件商標に、本件審判請求の登録前3年以内に商品「薬剤」に属する「無機抗菌剤」に使用されているのであるから、商標法第50条第1項の規定に該当しないものである。

4 被請求人側参加人の主張

本件審判請求は成り立たない、審判費用は請求人の負担とするとの審決を求めると答弁し、その理由を概略次のように述べ、証拠方法として丙第1号証乃至丙第4号証(枝番を含む。)を提出している。

被請求人側参加人(以下「参加人」という。)は、本件商標権につき、地域を日本全国、期間を平成15年3月31日まで、指定商品に属する「呼吸器官用薬剤及び消化器官用薬剤」の使用を範囲とする専用使用権者である(丙第1号証の2)。

参加人は、平成4年2月頃から大阪市東住吉区南田辺1丁目10番28号所在の高市製薬株式会社(以下「高市製薬」という。)との間で共同して「トローチ剤」の開発を進め、製品の販売名に「アイス」を使用することになり、平成8年1月8日に本件商標の商標権者と専用使用権の契約の同意をした(丙第2号証の1)。

参加人は、平成8年1月22日に高市製薬が本件商標と社会通念上同一とみられる「アイス」の文字を含む販売名「アイストローチ0」及び「アイストローチL」を販売名とする「トローチ剤」を医薬品製造承認申請し、平成8年9月26日付けで医薬品製造の承認を取得するに至った(丙第3号証)。

そして、本製造承認申請と同じ頃、平成8年1月23日に参加人と被請求人の間で本件商標の専用使用権の契約が成立したので、専用使用権の登録申請をし、平成8年6月24日に前記した範囲での専用使用権設定の登録がなされた。

そこで、上記「トローチ剤」の商品化については、製造を高市製薬が担当し、販売を参加人が担当して上市することについての合意があり、商標の表示方法、商品のパッケージデザインの検討が幾度かされて発売されることになった(丙第2号証の2)。

しかしながら、医薬品については製造承認の取得後から発売迄に上市のための準備が必要であり、中でもこの「トローチ剤」は、新規基剤を用いた本邦始めての医薬品として承認されたもので、使用時のアルミ包装の開封までの品質の保証に止まらず、開封後の品質に関する情報を提供するため、念入りな安定試験の実施等を必要とし、これらが発売に間に合わなかった本件商標の使用についての最大の遅延理由である。

したがって、本件商標の専用使用権者である参加人は、本件商標の使用について、使用の意志を外部にも表明、かつ、企業内部において本件商標の使用を準備中であることを明らかにしており、本件商標の使用開始が本件審判請求の登録日以後になるとしても、その間の製造認可及び使用許諾の登録等をもって商標使用の準備を進めている内容を明らかにしているのであるから、本件商標はその不使用について正当な理由があるものである。

本件商標の使用遅延が多少あるとしても、参加人は、医薬品製造の承認を本件審判請求の予告登録前に取得し、本件商標について商品「呼吸器官用薬剤及び消化器官用薬剤」の専用使用権を取得して真摯な準備段階にあることは明らかであり、不使用について正当な理由が存在することは前記のとおりであり、特別の理由があるというべきである。

以上のように、本件商標は、その指定商品中、取り消しに係る商品について、本件審判請求の登録前3年以内に日本国内において使用されていないとしても、前記した理由により、不使用についての正当な理由があるものである。

5 当審の判断

被請求人の提出に係る乙各号証をみると、被請求人が本件商標を使用しているとする商品「無機抗菌剤」は、乙第2号証「アイスの説明と概略」の項によれば、「無機微粒子に抗菌性作用を発現する金属を担持したもので、広範囲な細菌とカビに作用し、樹脂、繊維、紙、各種粉体、塗料、インク、接着剤、コーキング剤などへ少量添加することにより、優れた抗菌性を示す」旨の記載が認められる。

また、上記「無機抗菌剤」は、同号証「抗菌剤アイスの応用分野」の項によれば、「フィルム(抗菌・防カビフィルム)、成型品(台所用品、バストイレ用品、食品容器等)、合成繊維(抗菌・防臭繊維)、その他(塗料、建材、合成皮革、水処理装置等)」の旨の記載が認められる。

さらに、乙第3号証「お願い」の項によれば、「弊社(無機)抗菌剤は、いわゆる「殺菌剤」や、「消毒剤」とは全く異なり、直接人体に接触や塗布して使用するものではない。さらにまた、食物に添加したり、動植物に直接適用するものではない。」旨の記載も認められるところである。

以上よりすれば、本件商標を使用した上記商品「無機抗菌剤」は、例えば、植物・土壌用の抗菌・殺菌・防カビ、動物の飼料に添加する等に用いる農業用又は公衆衛生用薬剤等「薬剤」に属するものとは異なるものであって、工業用の抗菌目的に用いる無機工業薬品と認められるものである。

つぎに、参加人の提出に係る丙各号証をみるに、丙第3号証「薬務公報」(厚生省薬務局監修、平成8年12月11日薬務公報社発行)によれば、「アイストロー0」及び「アイストローチL」を販売名(商標)とするその他の歯科口腔用薬について、平成8年9月に高市製薬に対し医薬品製造承認されていることが認められるものであって、この時点から当該薬剤を製造販売し得る状況にあったといえるものであり、かつ、該承認が取り消された事を証する書面等何ら立証されていないものであるから、参加人の主張する本件商標の不使用の理由は、正当な理由とは認められない。

さらにまた、丙2号証の2に示された商標「アイストロー0」の22件は、全て本件商標とその構成態様を異にするものである。

してみれば、被請求人及び参加人は、本件商標を本件審判の請求の登録前3年以内に日本国内において、本件取消請求に係る前記指定商品について使用していたということはできず、かつ、使用していないことについて正当な理由があるものとも認められない。

したがって、本件商標の登録は、商標法第50条第1項の規定により、その指定商品中「単一異性体又は活性代謝生成物製剤及びその類似商品」についての登録は取り消すべきものである。

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